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フランス文学(16)
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意味はといえば「ウチのクレイジー娘」かな。そういえば昔「家の馬鹿息子」(サルトル)という本もありましたが。今回のスペイン行きの機上のお供はこの1冊に決まり。
Rosa Monteroはスペインの文壇で活躍する作家兼ジャーナリスト。マドリッド出身で作品の多くがマドリッドを舞台にしているため、親しみを感じてこれまでにも何冊か彼女の作品を読んできた。(「Bella y Oscura」「La Hija del Canibal」など。)今回のこちらは数年前に買ってあったもので、フィクションではなくエッセイである。表紙とタイトル、それに背表紙のテキストから、文学少女で変わり者だった子供時代の回想なのかな、と思っていたけれど、読んでみたら、もっと硬派な文学論だった。(でも、表紙の写真は作家本人の子供時代のようである。) 内容は文学について、創作について、そのパッションと狂気についての作者の考察である。そうはいっても最初の1行が「わたしは、その時々の男と著作によって自分の人生を整理するクセがある」というものだから、堅苦しい作品ではなく、むしろ本音トークに近い。 自らの創作活動を振り返るとともに、多くの作家や作品が登場するので、それらの名前を浴びているだけで、本好きとしては幸せ。イタロ・カルビーノ、アルチュール・ランボー、メルヴィル、ゲーテ、「ドン・キホーテ」「アンナ・カレーニナ」、「シエラザード」、フォークナー、ポール・セロー、カポーティ、カフカ、ジョージ・エリオット、カーソン・マッカラーズ、ユルスナール、ゾラ、フィリップ・K・ディック、ナボコフ、などなどなど。 自作の「Bella y Oscura」の誕生秘話もなかなか面白く(ボストンで夕暮れ時に道に迷った怖い思い出の描写は、昔々読んだこの本の風景をありありと思い出させてくれた)、カーソン・マッカラーズの「悲しき酒場の唄」誕生についてのくだりも面白い。ブルックリンのカフェで見かけた奇妙なカップル-大柄で屈強な女性と、その足元にまつわりついているせむしの小男-がこの風変わりな作品の強い引き金になったという。Rosaは別のページで、「それにしても、あのブルックリンのカフェにいた“現実の”大女と小男はその後どうなったんだろう」と思いを馳せる。 スペインの女性作家代表のひとりとしての役割を担わされてきたであろう彼女だけに、「女性文学」というくくりに対する憤りも強い。「女性文学」なんてカテゴリーはナンセンス、それではなぜ世の中に「男性文学」というジャンルはないのか?・・・まさにその通り。 おんなじ考え方の延長で、わたしはあんまり「ロシア文学」「フランス文学」といった地理的分類も好きではない。もちろん、便宜上分類は必要だからしかたないし、国籍が違えば人のプロトタイプの違いもあるのだから、全くナンセンスとはいえないけれど、例えばわたしは「スペイン文学が好き」かと聞かれればよく分からないし。 世の中では作家や評論家がもっとステキな文学分類の試みをさんざんしていて、そのことについても後半に触れられる。 「女性文学」への憤りと同様にRosa Monteroは「作家の妻」の存在に対してもシンラツだ。「作家の妻」代表格として上げられるのはスティーブンソン(「ジキルとハイド」)の妻や、トルストイの妻など。双方とも悪妻として歴史に名を残しながら、夫の出世のために自らを犠牲にした女性だけれど・・それにしてもスティーブンソンの奥さん(Fanny Vandegriftという名前)は悪評とはウラハラにひょっとしてすごい進歩的な女性だったみたい。(3回冒険的な結婚をしていて、回を重ねるごとに夫が画期的に若くなる。)ふーん、と感心するような、文学エピソードも満載。 小説は「都市」のようなもの、という比喩も良い。無軌道に増殖していくものを、なんとか区画整理しようという(不可能な)試み。 自身ジャーナリストでもある彼女が「文学とジャーナリズム」の違いについて云々するくだりも面白い。ジャーナリストは「自分がすでに知っていることについて書く」職業だが、文学は「自分が知らないということを知っていること、について書く」営みだと。 「La Loca de la Casa」は作家の頭の中に住んでいる小鬼(daimon)のようなものである。「小人」のイメージにとらわれ続けている彼女としては(作品にも必ず「小人」が潜んでいる。)、そのイメージはたやすく「小人」とオーバーラップする。そして、お気に入りの一方には「クジラ」がいる。 イタロ・カルビーノ経由で知ったという「湖に恋をしてしまう王様」の話がおかしくもやるせなく、とても魅力的。それから、最終章で語られる修道女の小話も非常に良い。 ところで、Rosa Monteroはこの作品の中にひとつのしかけをしている。それは3度語られることになる、彼女自身のかつてのアバンチュールについてである。時は1974年。フランコ政権崩壊前夜のマドリッド。国外から流れてくる自由の風と暗く重苦しい空気の狭間で、映画雑誌のエディターとして、23歳の熱い夏を生きていた彼女の出会った恋の話。 そんなこんなで「やっぱり物語って、文学って本当に素晴らしいな」と、自らの「本の虫」加減(スペイン語ではBicho lectorっていうんだ。Bicho=やっぱり虫)をしみじみと肯定していると、いつのまにかもうすぐ成田に着陸なのであった。 ・・・ *カーソン・マッカラーズ 「悲しき酒場の唄」 →こちらは昔読んだ「La Hija del Canibal」
by perdida
| 2008-09-21 11:13
| スペインの本棚
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