カテゴリ
仏蘭西のかけら 食べる・飲む! 時々ミステリー スペインの本棚 ルポルタージュ 夏の読書 モディアノ中毒 物語を読む 長編小説の喜び 辺境文学びいき 本が好き! ジョルジュ・シムノン 夜の読書 都市の冒険 視覚の快楽 I love ボタニカル 犬は友達! 考えるヒント ヨーロッパは奥が深い モラヴィア・ワールド なんたって名作だもの お見事なイントロダクション タイトルの秀逸(独断による) 買い物日記 私の好きな本屋さん リンク
★デザインリエゾンセンターのサイトに寄稿しています。→コチラ
●「本が好き」元バージョンはこちらにいます。 http://homepage3.nifty.com/callate/index.htm ●日々繰り広げられる献立の冒険「かえるキッチン」もご覧ください。 http://kaerukit.exblog.jp/ タグ
フランス文学(16)
パリ(15) ミステリー(12) 書店(11) スペイン文学(9) 移民(8) もうひとつのアメリカ(7) 少年少女(7) 装丁(7) 東京(7) ルポルタージュ(6) サイエンスフィクション(6) グラフィックノベル(6) コミック(5) バルセロナ(5) 堀江敏幸(5) 犬(4) タイムトラベル(4) 新書(3) 写真集(3) 最新のトラックバック
検索
フォロー中のブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
こちらはフランス語の原版だけど、「暗いブティック通り」というタイトルで日本語訳も出版されている。「冬のソナタ」の原作者は、この作品からあのヒット作を思いついたらしい。とはいえ、主人公が記憶喪失者であるということのほかに、きっとそんなに共通点はないと思う。(「冬ソナ」をちゃんと知らないので断言は控えますが!)
フランスには「モディアノ中毒」という言葉がある、と聞いて以来、この表現が大変気に入っているが、なにせこの独特の宙ぶらりん感はハマるとほんとに中毒になる。モディアノの作品は常にミステリ(それも極上の)の様相を帯びてはいるけれど、腑に落ちる推理も、明快な事件解決も待ってはいないので、ものごとが白黒ハッキリしてないと気が済まない人には不向きです。モディアノの描く世界はニュアンスに満ち、影や気配が彷徨し、時がもつれ、道に迷い、ふっつりと明かりが消えて、突然置いてきぼりにされる。 この作品の主人公中年男のGuyは過去の記憶を失っている。パリの探偵事務所で働いていたが、ボスの引退で閉業したのを機に自分の過去を探り始める。徐々に追い詰めていく過去の断片は、しかし最後までひとつの絵にはならない。過去の自分と思われるイマージュは、時に三人称で表現されて、それが記憶なのかフィクションなのか定かでない。そして時々それは誰か他人の記憶の片隅にある自分であったりもする。 「国境」という言葉がちらつく。国境で何かが起こったらしいのだ。そして、妻だったらしい女性Deniseとの別れもおそらく。彼は少しずつ思い出す。偽造パスポートを持って、妻や友人達と雪深い村Megeveに潜んでいた奇妙に平和な日々を。そして、とうとう思い出す。ある日ロシア人の怪しい青年に導かれて妻とともに国境を超えようとして、そして結局超えることが出来ずに記憶が途絶えたことを。このシーンの見渡す限りの雪面の、目にささるような白さはなかなか鮮烈です。 終盤近く不思議な章がある。とある女性がふとした拍子に彼らを思い出す。PedroとDeniseというカップルが昔いたことを。なかなか似合いのカップルだったな、と思いながら、思考は別の方向に流れてしまう。サイゴン通りに住むこの女性は誰だったんだろう。 ・・・ 主人公の実の名はPedro。ドミニカ人Pedroの偽造パスポートを持った、Pedro Sternというギリシャ人だった。さんざん遠回りをした後にようやくたどり着いた名前と国籍が実は偽装だった、という仕掛けにさらなる面白さがあるのだが、全然関係ないけれど、このことで1冊の本を思い出す。ブライス・エチェニケ(Alfredo Bryce Echenique)というペルー人作家の「Tantas Veces Pedro」。「幾たびもペドロ」というステキなタイトルで日本語版も出ている。これがまた、モディアノとは似ても似つかない狂騒的な世界ながら、自分探しのスパイラルにはまり込んだ男ペドロのおかしくも悲痛な(?)モノローグのみから成り立っている作品で、読んでいる方も頭がおかしくなりながらもすっかりやみつきになってしまう面白さなのです。
by perdida
| 2008-09-03 21:27
| モディアノ中毒
|
ファン申請 |
||