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フランス文学(16)
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スペインに特に詳しくない人はバルセロナも当然スペインの一部だと思っていると思うけど、実は結構微妙である。バルセロナを含むカタルーニャ州の人々はカタラン人と呼ばれ、本人達もスペイン人であるという自覚は薄い。スペイン語とカタラン語を見事に併用し、本屋に行けば村上春樹「海辺のカフカ」のカタラン語訳だってちゃんとある。
わたしはここ数年時々バルセロナに行っているけど、スペインにいるということを忘れるくらい。人々はおしなべてなんとなくすっきりしており、あのべちゃっとしたクドさがなく、日本で言ったら赤旗新聞かと思うような位置づけの新聞を堂々と愛読し、日本じゃ死語な左翼を自認して反権力意識が強い。そして街並みや店先の商品が洗練されているのも昔からで、マドリッドに留学していたころはたまにバルセロナに行くとほぼアルデンテなパスタが食べられてそれがうれしかった。 本作はバルセロナをテーマとしたいわば近現代史小説である。バルセロナでは1888年と1929年の2回万国博覧会が開催されているが、この2つの万博を挟んだバルセロナの移り変わりを描いたのがこの作品だ。 軸になっているのはOnofre Bouvilaという主人公の出世物語。物語の始まりではまだ10代の小僧で、一旗上げるために山から出てきた田舎者である。ほとんど一文無しに近かったが、万博会場建設現場の労働者たちに地下組織のチラシを配る仕事を得て、ついでに毛はえ薬を販売して小金を儲けることを覚え、その後の人生ではさらに金儲けの才覚を発揮していく。 彼が最初に身を寄せる下宿屋では奇妙な隣人に事欠かず、宿の主人Braulioも実は女装して夜の町をさ迷う奇人だし、その娘Delfinaはやせこけて醜い上に無愛想な、生活に疲れた娘だが、前身にトゲのようなオーラを張り巡らし、奇妙に魅力的である。そして彼女に輪をかけて獰猛な猫Belcebùを伴っている。 主人公やそれを巡る人々、そして主人公の恋などこの頃の描写は生き生きと秀逸で、ラサリージョ・デ・トルメスのようなピカレスク小説(スペインのお家芸!)を大いに期待していたが、その後のOnofreはヤクザの手下となったまではいいものの、土地ころがしで儲け、時には裏切りや殺人も意に介さず、武器商人となり、映画ビジネスに手を出し、最後は飛行機やヘリコプター・・・というように、時代の推移をなぞっているだけで、なんとなく平板である。冷血でしたたかなキャラクター設定はありがちで、それ以上にはOnofreのイメージは深まらず。 その代わり、Onofreのサクセスストーリーをとりまく時代背景の描写は大変豊かである。バルセロナの自治と中央政権との確執をめぐる様々なエピソードを始めとし、アナーキズムやストライキ、暴動、キューバやフィリピンを巡る戦争などがたっぷりと解説され、そのあふれる時代描写のために500ページもの長編となっている。そしてラスプーチンやアレキサンドラ皇后、マタ・ハリ、ガウディなども物語に登場しOnofreとニアミスしたりしている。 史実に関する予備知識が欠如しているため、消化不良となってしまったのがとっても残念だけど、19世紀末のバルセロネタ(海岸)の様子、バルセロナの町の成長の経緯、移民や労働者の生活、グラシア通りを練り歩いていた当時の人々の衣装など、大変興味深いデータもいっぱい。 作者が19世紀末から20世紀初頭にいたるこの時代を切り取ったのは、それが最もバルセロナの輝ける時代だったからだそうだ。その後の世界は恐慌に見舞われて行く。いきなり強引なファンタジックエンディングにはちょっとあれれ・・?だったけど、でも、ま、いいか。 表紙のイラストは前付けによるとFeliu Elíasという人の作品らしく、バルセロナの現代美術館にオリジナルがあるみたいだから特に本作の内容とは関係ないと思うが、冒頭に語られるSanta Leocriciaという聖女の逸話を彷彿とさせる。(ので、採用されているのだと思われる。)昔々、ローマの時代、レオクリシアというキリスト教徒の女性がいたが貧しい人々に施した善行と信仰心がもとで首を切られた。その首が坂を転がり落ち、角という角を経巡って最後に海に落ちてサカナに食われた、という伝説があるそうだ。なんともおどろおどろしく凄みのある伝説じゃありません? この話と呼応するようにおしまいの方にもうひとりの聖女Santa Eulaliaが登場するが(こちらは拷問の上に焼かれて死んだらしい)、この人はSanta Mercedにその役を譲るまでバルセロナの守護聖女だったのに、今ではその存在の信憑性が疑われているとか。表紙の絵はエウラリアを例えているのかも知れません。 この本は1986年初版。スペイン語版がオリジナルのようだ(カタラン語ではなく)。その後も版を重ねるロングセラーのようで、マドリッドでもバルセロナでも書店に入ればほぼ必ず見かけるが、ロングセラーの理由はカタラン人の人々の支持によるものだろうか。わたしは本当はマドリッド党のはずなのに、そういえば読書はバルセロナに偏り気味だなあ。出版社や気が利いた書店が多いのも、マドリッドよりはバルセロナなのでつい・・。そうは言っても、この作品の終盤を舞台のバルセロナで読むことが出来たのは幸運です。
by perdida
| 2007-03-06 19:31
| スペインの本棚
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